君たちは、東地中海に浮かぶキプロスという島を知っているだろうか。しかも、この
島で、今から20数年前に、キプロス紛争が起こり、その結果、この島が南北に分断され
ているということを、知っているだろうか。そもそもその紛争は、この島に住んでいる
ギリシア系住民とトルコ系住民の対立が原因となり発生したもので、更にそれに加えて、
トルコ系住民を保護するという名目で、トルコ軍が出兵するという事態になり、その結
果、トルコ系住民側が独立を宣言してしまう、のである。これが、現在の北キプロス・
トルコ共和国である。但し、この国を承認しているのは、世界中でトルコだけで、従っ
て、通常国名としてキプロスと言えば、ギリシア系住民の国を指すのが常である。もち
ろん日本も、この北キプロスを承認していないが、日本国籍を持つ者が、入国しようと
しても、何ら問題はない。ヴィザの必要もない。ただ、入国をするときの注意事項が二
つある。それは、パスポート・チェックを受けるとき、決して北キプロスのスタンプを、
自分のパスポートに押してもらってはいけない。というのも、北キプロスのスタンプが
押してあれば、ギリシアや南のキプロスには入れないのである。他の国の例では、イス
ラエルのスタンプがあれば、一部の国を除いて、アラブ系の国家には入れないというの
が有名であるが、それと同じである。僕の場合、トルコからキプロスに入ったのだが、
その前、トルコに行くのに、アテネ経由の飛行機で行ったのである。しかもアテネ空港
で待ってる間、空港の建物内に入れてくれ、ご丁寧にその際、パスポートチェックをや
ってくれたものだから、必死である。北キプロスのスタンプを押されては、帰りにトラ
ブってしまう。じゃ、どうするのか。入国審査のとき、スタンプを押そうとしたら、他
の紙を示し、ここに押してくれと頼み込むのである。相手もその点は承知していて、備
え付けの用紙を、僕に渡してくれ、そこに名前などの必要事項を書くと、その用紙に北
キプロスのスタンプを押してくれるのである。この時程、国家権力というものを実感し、
国際情勢に敏感にならざるを得ないときはない。
先程書いたように、僕は、トルコから入った。もう少し詳しく書くと、トルコ第3の
都市・イズミールからキプロス・トルコ航空に乗り、北キプロスのエルジャン空港に入
ったのであるが、北キプロスには、キプロス・トルコ航空というがあるのである。トル
コ航空がTHYのマークで表し、キプロス・トルコ航空の方はKTHYで、Kを頭に付
けただけである(「K」は「クゼイ」と読み、「北」を表すトルコ語である)。まるで
トルコ航空の子会社のように、思えません? そのような印象もあり、もし事故ったら、
日本の新聞に載り、またそれを見た人たちが、日本人で、どこでも行ってんねんなあ、
わけもわからん飛行機に乗るさかいに、事故るんやという目で、見られんのんやろなあ
と考えながら、乗ったものである。しかしこの航空会社、北キプロス・トルコ間だけの
国際線を持ってるだけではなく、口ンドン便やドイツの幾つかの都市に飛ぶ路線を持っ
ている。だが路線決定は、政府間交渉で決まるはずだのに、なんで北キプロスを承認し
ていないイギリスやドイツに飛んでるのか、未だもって分からない。しかし、あること
はあるのである。
エルジャン空港、ここは驚きましたね。ただの野原、そこに降り立つと、止まってい
る飛行機は、僕の乗ってきた飛行機が、ただ1機。その野原に、小さな2階建のビルが
一つぽつんと立っている。もちろんそれが、税関とかが入っている空港ピル。そのピル
の屋上に、出迎えの人が、お目当ての人をいち早く見つけたのか、一所懸命に手を振っ
ている。実にのどかな光景である。こんな国際空港見たことない。僕が、北キプロスに
入ったのに遅れること約1ヶ月、このエルジャン空港に降り立った知人がいる。大学生
である彼は、イスタンブールで、トルコ第3の航空合杜・アグデニズ(地中海)・エアの
航空券を手に入れた。エルジャン到着が、夜の11時台。そこで、彼は考えた。国際空港
だから、周りにホテルぐらいはあるやろ。僕は、この話を聞いたとき、ここで思いきし
つっこんだ。「あらへん。あらへん」。到着してから気が付いた彼は、どうしたのかと
いうと、飛行機の中で隣り合わせたトルコ系キプロス人の家に泊めてもらったというこ
とである。僕は、ここで大笑いするとともに、この国やったら、十分にあることやろな
と、簡単に納得もするのである。
(注)95年夏の記録である。キプロスを取り巻く状況は、全く変わっていない。
従って、入国にあたっての注意事項は、このままである。ここには書いていな
いが、イズミール空港からキプロスに飛ぶ日本人は少ないらしく、イズミール
空港のパスポート・コントロールで、「日本人は、ヴィザが必要だ」といきな
り言われて、あわてたことがある。抗議をして、相手も調べてくれて、事なき
を得たという思い出がある。南側からの入国方法は、近い内にアップします。
ところで、アクデニズ・エアは、最近見かけないが、「オヌル・エア」になっ
たんだろうか? ご存知の方、ご教示下さい。
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