僕は、海外旅行中は、極カタクシーを使わないようにしている。確かにタクシーは、
自分が行きたい所へ、間違いなく目的地に連れて行ってくれし、時間も随分と節約でき
るのである。だから時間が大切なとき、例えば空港へのアクセスには、トラブゾン空港
のように、ドルムシュがぱんばん走っているような所を除いては、タクシーを使う。し
かしそれ以外は、遠いながら、その土地の人に道を聞きながら、行こうとする。これが
実に楽しいし、その様なときこそ、その国の人たちの親切が身に染むときはないうえ、
いろいろと苦労しながら会話をすると、トルコ語も上達するというものである。ところ
が、ここにアクセスの方法がどうしようもなく、歩くには遠いときには、タクシーを利
用するしかない。さもなくばヒッチハイクである。そこで、先ずトラクターのヒッチハ
イク体験を二つ紹介した後、タクシーにまつわるおもしろ話を、こちらも二つ紹介しよ
う。
トルコの南東部に、アダナという大都市がある。ここになかなか充実した博物館があ
る。その博物館のオフィスの壁に、また丁寧に、近郊の歴史的遺物のある場所を、若干
の解説を加えながら、掲示してあった。ほとんどは知っている所だったが、なかにミシ
スのモザイク偉物館というのがあった。モザイク画にはとても興味のある僕は、予定を
変更して、早速行ってみようと思い、そこの職員に詳しく行く方法を聞き、その通りを
ドルムシュ乗り場で言ったところ、間違いやすかったから聞違ったのか、いい加減に扱
われたから、これと間違うなよと懸命に強調されたドルムシュの方に乗ってしまった。
で、降ろされた所から、目的地までは、なんと4km強あったのである。一本道で、道で
会う人に聞いても、「この先だ」という答しか返って来ず、時間を聞いても、うんざり
するような数字しか返って来ない。道はとても寂しい。小1時間もあるいた頃か、後ろ
から、パタパタというトラクターの音。思わず振り返って、「乗っていいか」と問うと、
満面笑みをたたえ、胸をボンボンと叩いて、「もちろん」。嬉しかったですね。丁寧に
博物館の入口の小道まで送ってくれた。これが1度目。2度目は、アマスヤという川沿
いの素敵な町から、トカット行きのドルムシュに乗り、カレキョイという村を訪れたと
き。僕は、カレキョイという村は、そのドルムシュが走っている道路沿いにあるものと
決めてかかっていたが、こっちの方向に向かって歩けと言って、ドルムシュを降ろされ
た地点に、なんとカレキョイまで5kmと出ているではないか。ところが、僕は、そのと
き、往復10km歩かなきゃならないとは、思っていない。むしろ結末を予想したかのよう
に歩き出したのである。途中ろばに奥さんを乗せ、旦那はろぱを引くという、実にほほ
えましい夫婦に写真を撮らしてもらったり、小川で水遊びをしている子どもたちにも、
写真を撮ってやったりしながら、目的地に着く。着いたら着いたで、オスマン時代の家
屋で、昼飯をよばれたりと、トルコの超田舎を楽しませてもらって、いよいよ帰途に就
きかけて、村外れに達しようかというとき、後ろからバタバタ音。来た来た来たぞ。こ
ちらが頼むまでもなく、「どこまで行くんだい。乗っていけや」の声。喜んで、荷台に
飛び乗る。するとそこには、先客が二人いる。彼らの指示通り、荷台に置いてあった長
い木を持ち、その先端を荷台の前の部分に押しつけ、それに自分の体重を掛けていく。
するとどうだ。トラクターが、どんなに揺れても、荷台でバランスを崩さないのだ。パ
ス道までの丁度中問あたりで、反対方向から、自家用車が1台やって来て、このトラク
ターの横で止まる。しばらく世間話をしていた連中が、僕に、降りて、この車に乗れと
言ってくれる。僕と同じく、アマスヤに行くために、このトラクターに便乗していたお
年寄りと一緒に乗り込むと、今度はバスやドルムシュの止まり安そうなところまで送っ
てくれた。そして、このお年寄り、知り合いに会う度に、僕を友達だと紹介している。
僕は、嬉しいやら恥ずかしいやら。だけど、これって、トルコではノーマルなんだよね。
トルコは、観光シーズンとそれ以外で、便利さがとても異なる。アンタルヤという僕
の好きな都市からは、アスペンドスやペルゲなど、古代ローマ都市遺跡に行くことがで
きる。ところが、オフシーズンともなると、アンクルヤからダイレクトにパスなどで行
くことができない。それを見越して、一つの商売が浮上する。タクシーもタクシー、俗
に言う白タクである。オトガル(パスターミナル)で、途中まで行くバスを捜している
と、一人のお兄さんが、声を掛けてきた。白タクのお誘いである。半分以上本気で、値
段交渉を始める。言い値の半額で、いやそれがノーマルな料金だと判断したので、そこ
まで下げさして、いよいよ車に乗り込む。が、少し走り出すと、こんなけ走ると、ガソ
リン代がかかるしなと言い出す。図りおったなと思った僕は、「今頃、何を言い出すの
だ。そんなことを言うのなら、ここで降りる」と、信号で止まったとき、本当にドアを
明けて降りてしまうと、「語し合おうじゃないか」と言いながら、僕の後をついてくる。
「ガソリン代の話なんか、乗る前に言え。俺は、一度言った料金しか払わない。それも、
僕を元の所へ送り届けたときに、払う。それでなければ、俺は、ここから歩いて、オト
ガルに戻る」と、喧嘩越しに言うと、相手もこの客を逃がしてはと妥協をし、僕の言い
分をそのまま聞くことを了承する。やっと車に戻り、出発し直すと、彼は、「俺は、今、
携帯電話が欲しいんだ。だから、こんなことをしてるのだ」と、世間話を始める。その
語を聞いていると、満更ヘンな人ではないらしい。更に、少し行くと、今度は、ボリス
の検間に引っ掛かる。ところが、どうしたことか、この男、顔パスなのである。そこで、
僕は気が付いた。こいつ、ボリスと違うか。非番のときに、こんな白タクをして、小遣
い稼ぎをしてやがると。どうやら、あたりである。この男のように、非番でやってれぱ、
まだ憎めないし、持ちつ持たれつの関係で、僕の方にもメリットもあるが、勤務中に白
タクをやられると、おまけにポッてくると、切れる。これもアンタルヤから、1時間半
程パスで走ると、オリンポスがある。ギリシア神話の神々が住むオリンボス山の位置は、
諸説あるが、ここも、その一つである。おまけにここは、岩山からメタンガスが漏れて
おり、常にそれに火がついている。「オリンポスの消えない火」と言って、饒光名所で
もある。ところか、シーズンオフには、この村まで、ダイレクトに入り込むドルムシュ
すらない。パスが行き来する街道で降ろされ、後はタクシーに乗れと言う。誰もいない
所に降ろされた僕は、この先どうしようかと考えていると、1台のパトカーが止まる。
これが、白タクである。なんと現職の警官が、勤務中に、制服のまま、アルバイトをし
ているのである。それもパトカーを使って。乗ったことは乗ったが、法外な料金を請求
をされたため、ここでも喧嘩をして、こちらの言い分だけの金額を手渡して追い返す。
帰りは、6qの登り坂を歩いて帰るつもりで。そのつもりだったが、古代リキヤの遺跡
を見ているときに知り合ったトコル人が、我々の仲を取り合ってくれて、最後は、握手
をしてパスまで送ってもらうこととなる。料金は、お互いに歩み寄ってたが、他では考
えられない額で。とまあ、ちょっと日本の常識では考えられないことが、まかり通って
いる。これも、また楽しきかな。やっぱり、ここは、トルコである。僕の知り合いのト
ルコ人が、顔をしかめるトルコである。
(注)なんか、この頃は、行きにくい所へ行くときは、どこかで、車に拾ってもら
えることを前提に動いているところがあります。1人で歩いていて、トルコ人は
そんなやつを放っておかないだらうという前提で。
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